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twililight web magazine

2023.04.20更新

パイプの中のかえる2 かえるはかえる

小山田浩子

2020年7月から12月の半年間毎週連載したコラムに、書き下ろし2本をくわえた小山田浩子さんの初エッセイ集『パイプの中のかえる』(twililight)。
この連載では再びこれから半年間、毎週、小山田さんがエッセイを書いていきます。近くに遠くに潜むいろいろなものに、気づくことの面白さと不思議さ。
小山田さんの「今」をご体験ください。


第3回「ぴーすくる」

 晴れた春の日曜日、広島市中心部を自転車で走った。自転車は借り物だ。「広島市シェアサイクルぴーすくる」、1回利用や月極など料金プランを選びポートを検索し1台選んで利用後はまた近くのポートに返却する。便利だ。利用前はそうでもなかったが自分が乗るようになるとコンビニやホテルに待機中の自転車が目につくようになりでっかいバックパックの人やスーツの人が乗っているのに気づきもし、結構活用されてたんだな、意識していないものは存在していても見えない。「ぴーすくる」はピース=平和来るとbicycleの語呂合わせだろう、どうして広島のシェアサイクルがそんな名称なのかといえば原爆を落とされ復興した都市だからだろう。「広島」といえば「平和」である。
 自転車で江波(えば)から平和記念公園に向けて走る。電動アシストつきで楽だ。広島で5月に開催予定のG7サミットを寿ぐらしい立体花壇があった。川沿いを走った。八重桜が見ごろで花見している人もいた。旧広島市民球場跡地を抜けた。自転車降りるべしという表示があり降りて押した。球場跡地には最近カフェや店や広場などのある施設ができており人々が行列したり飲食したりして賑わっていた。イベント中らしいマイク越しの明るい声も聞こえ、ここにもサミット関連の案内があった。その先の中央図書館へ行き自転車を駐めた。原爆ドームからも近いこの図書館は移転が問題になっている。1974年に建てられ老朽化で建て替えが必要らしいのだが同じ場所での建て替えではなく全く別の築24年の商業施設ビルに移転すると決まり、その決定プロセスが急だし公共図書館の商業施設への移転は本当に妥当なのか貴重な資料の保全や管理や活用がきちんとできるのか利用者にとって不都合はないかそもそもなぜいまの場所に建て替えるんじゃダメなのか等を疑問視する市民から反対意見や署名が提出されたのだが移転は市議会賛成多数で可決された。本を返して借りて違う出口から外に出て自転車まで図書館脇を歩いた。四角い池があって岩のオブジェがあって鳩がいてガラス越しに自習室に座って読んだり書いたり考えたりしている人が見える。木々が明るい陰をつくっている。自転車に乗って古本を買い自転車をポートに返しバスに乗り郊外の自宅へ帰った。
 その日4月9日、広島は統一地方選挙投票日だった。私は期日前に投票した。結果は34.53%の投票率で図書館移転については丁寧に説明し理解を得たとする現職市長が当選し県議選は35.87%市議選は過去最低34.40%の投票率で河井元法相の大規模買収事件で在宅起訴中の議員が4名当選した。広島の投票率の低さについては前も書いたことがある。平和来ると名乗る電動アシスト自転車が走り現総理大臣出身地でもうすぐG7で平和教育教材からはだしのゲンと第五福竜丸の記述が削除された都市の投票率が相も変わらずバチクソ低いこと、労働や介護育児体調不良等で身動きが取れなかった人もいるかもしれないがそれにしたって6割5分の人は自分がなんの意思表示をしなくても現状平和でこの先ももっとずっと平和でいられると思っているのだろうか。この場所でまさにいま目の前で戦争が起きていないならそれは平和なのか?社会の、身の回りの、さまざまなものについてそのあり方決められ方消され方忘れられ方について意識して選び続けること、その継続の先にしか平和なんてない。ちゃんと選んだほうがいい。

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